GK詳細分析「クロスボールに対して積極的なポジションを取ること」
GKにとって、クロスボールの処理はスペースディフェンスに分類される。つまり、処理できなくても直接的に失点につながることはない。しかし、守れるスペースが小さいとその分相手に侵入を許すことになり、結果として失点の可能性を高めてしまう。
続きを読む「ケパ・アリサバラガとサッリボール」②
今回は攻撃面での貢献、特にビルドアップにおけるケパのプレーをみていく。
GKが味方オフェンスのプレーに貢献するのは主に2つの場面。
1. ディストリビューション
2. パス&サポート
ディストリビューションはGKがキャッチした後に味方へボールを繋げるプレー、パス&サポートはフィールドプレーヤーのパス交換に関与するプレーである。どちらのプレーにおいてもGKには両足でボールを扱い、正確に味方へボールを供給するプレーが求められる。
今季監督に就任したマウリツィオ・サッリは、ボール保持時にもGKに大きな役割を与える。後方から攻撃を組み立てていくときの基準となるプレーは特に重要で、GKには両足でボールを扱う技術や認知・判断能力が要求されている。
GKが両足でボールを扱える恩恵は、容易にプレス回避できることにある。GKからのショートパスのコースは常に3つ用意されており、相手に的を絞らせない。
また、SBはそれほど高い位置を取らない(ビルドアップ時はアンカーと同列に構える)ことで、GKからのミドルパスも比較的供給しやすい構造になっている。
そして、ケパの特徴はミドルパスの正確性にあると考えている。
両足で蹴れたらもちろんアドバンテージだし、さらにミドルパスまで両足で自在に操れたら自チームが採用する戦術の幅も広がるよね。pic.twitter.com/yAkSzL8oUw
— Rene Noric (@ReneNoric) 2018年10月10日
特にリバプール戦ではその効果を発揮した。CFがジョルジーニョへのパスコースを封じ、両WGがCBにマークした時、一番安全で確実にボールを供給できるエリアはSBだ。そこへ正確にミドルパスを入れるケパ。
狙ったエリアへ正確に供給することで相手の1stプレスラインを剥がし、そしてチームにその後の展開に余裕を与える。チェルシーの攻撃の起点となるミドルパスを供給できるのがケパなのである。
ひとりごと
実はひとつ懸念していることがあって、それは「相手にオールコートマンツーマンを敷かれたときどうなってしまうのか」である。ハダーズフィールドがマンチェスターシティ相手に敷いた守備組織だ。その時は、エデルソンがゴールキックを相手最終ラインの裏に蹴り込んでアグエロが得点を決めたことで、先制することができた。しかしケパには、フィードの正確性こそあれど、エデルソンやアリソンのようなパンチ力はない。そうした状況に直面した時に、チェルシーはどう振る舞うのか。懸念すると同時に楽しみである。
参考文献:「サッリ・マニア」のコーチが解く、チェルシー新監督のゲームモデル | footballista https://www.footballista.jp/review/49562
GK詳細解説「開脚したけど腕はどこに出す?」
どうもこんにちは。欧州きて初めてのブログ更新です。今回はプレミアリーグのワンプレーをチョイス。
— ReneNoric (@Rene_Noric) September 2, 2018
ジョー・ハートの開脚型ブロック。今日はこのプレーを解説してみたいと思います。
開脚型ブロックの基本
開脚型ブロックのお手本として挙げられるのはW杯でクルトワが見せたこのプレー。
クルトワ(vsフランス)
— Rene Noric (@ReneNoric) July 11, 2018
ポケットに侵入してきた相手にどんな対応をすべきか。クルトワの回答がこれ。
①股下のコースをあらかじめ消しながら、ボールホルダーに寄せる。②シュートの瞬間に身体を広げて、左右のコースにきたボールに体のどこかを当てる。かかとの残し方も秀逸。
チェルシーの守護神🙌 pic.twitter.com/WlrkugCOM8
身体を開いてブロックをする際、基本的に両腕は横に伸ばしているのが望ましい。そのほうが守備範囲が広いからだ。単純にカバーできる範囲が広い。
一方で今回のジョー・ハートのプレーは両腕を高く上げている。なぜだろう。
相手のプレー方向とそれに伴うGKの予測
なぜジョー・ハートがこの場面で両腕を上げ、ドンピシャのタイミングで止めることができたのか。ある程度の推測はできる。
裏に抜け出してワンタッチでシュートする際、チップキックでGKの頭上を越すシュートを、ハートは予測できたのかもしれない。ルカクのそういったタイプのシュートに既視感があると思ったら案の定あった。この動画の最後のシーンだ。
こういった「走る方向がゴールに向かっていないがシュートが打てる」という状況で、チップキックでGKをあざ笑うシュートを狙うのがシュートパターンだったかもしれない。それを事前に予測して両腕をあげたのだ。
繰り返しになるが、「DFライン裏に抜け出した時の走る方向がゴールに向かってない状況でシュートが打てるとき、チップキックが来る!とハートは予測した」というのが僕の推測である。
なんか物足りない感じもあるが今日のところは眠いので以上にする。
今週のGK詳細分析「プレジャンプを巡る話」
GK界隈では散々擦り倒された「プレジャンプの是非」について、ここで議論を始めるつもりはない。選手によって良し悪しの差があるし、慣れ親しんだフォームでプレーする方が良いパフォーマンスを生むだろうから。
それを理解した上で話を始めよう。今週の議題はチェルシーvsアーセナルのムヒタリアンの得点シーンだ。まずはプレーを見ていただく。
ご覧の通り、ケパはプレジャンプするとき、腕を後ろに大きく振っている。結果的に低弾道のシュートに手が間に合わず、弾ききれずに失点を許した。
この失点は現地でも議論になっているようだ。
He's trying to generate momentum, but Kepa seems to swing his arms behind his back far too much. This naturally means he has less control of his right-hand when trying to reach Mkhitaryan's low-driven shot. #CHEARS pic.twitter.com/pbeydSOg98
— Rich Lee (@DickieLee) 2018年8月18日
”勢いを生み出そうとしているが、ケパは腕を後ろに大きく振りすぎているようだ。ムヒタリアンのシュートに手を伸ばそうとするとき、右手のコントロールができていない”
Kepa’s arm swing is excessive, isn’t it? Really exaggerated and definitely costs him time getting down to Arsenal’s first goal.
— David Preece (@davidpreece12) 2018年8月19日
”ケパの腕振りはやりすぎだろう。本当に大袈裟だし手を下ろす時間がかかる”
この失点の場面に限らず、プレジャンプの際に腕を後ろに振るクセがケパにはある。
— ReneNoric (@Rene_Noric) 2018年8月21日
ただ、これを”クセ”といっていいのだろうか。
常にこの振る舞いをしているわけではない。
— ReneNoric (@Rene_Noric) 2018年8月22日
近距離のシュートではこの振る舞いが現れない。
いくつかケパのプレー集を見ていて気づいたのは、「中距離のシュート」に対して、腕を振る傾向があることだ。なぜだろうか。
考えられるのは、先ほどの英語のツイートでもあった通り、「勢いを生む」ためだ。隅を突いてくるシュートに対し、腕を後ろに振って勢いを生み、そのスピードを生かして、止める。実際にそうして止めるシーンがプレー集にもいくつかあった。
よって、おそらくシュートの距離に応じて、予備動作を変えている。それも意識的に。練習でも見られることから、「意識的に訓練されている」可能性もある。
ひとこと
こういったシーンは今後もあるだろう。よって改善が図られる。策は2つ。①構えを変える②スピードをあげる(慣れる)。①は予備動作の振る舞い自体を変える。②は振る舞いは変えずにスピードを上げる。どちらも時間がかかりそうだ。
以上。
GK詳細分析「ゾーン1での振る舞い」
いよいよ開幕しました欧州のシーズン。今季も眠れない夜が毎週あるのか…と思いきや、来月から欧州生活が始まる僕はゴールデンタイムで見れそうなので、寝不足の心配はありません(自慢のように聞こえてしまったら失礼いたしました)。
さて、昨シーズンの途中から始めたPickUpSavesですが、今季は失点の分析もやっていこうという心意気なので一新して「GK詳細分析」と題して毎週お送りしていきます。(昨季は途中で始め途中で終わる、中途半端な性格丸出しな企画でしたが、今季は根気強くやっていこうと思います)(韻を踏んだのは偶然です)
第一回はUEFAスーパーカップから抜粋。まずはプレーをみる。
早速失点の分析。ジエゴ・コスタがゴリゴリ前進して角度のないところからニアにズドンと決めた先制点の話。
GKの目線から見る。シュートはゾーン1。つまり立っているだけである程度守れるゾーン。味方が2人後方から戻ってプレスをかけていて、相手はプレッシャーがかかっている状況だ。しかし相手はジエゴ・コスタ。どんな体勢だろうと貪欲にシュートを狙ってくる、GKにとっては嫌なFW。そして強いシュートも打てる。
「シュートコースを狭めるか」or「反応時間を作るか」
ポジショニングはどうだっただろう。
ニアポストからおよそ3歩ほど前進して構えている。基本的にどのシチュエーションでもそうだけど、前進して得られるメリットは「シュートコースが狭まる」こと。下がって得られるメリットは「反応時間が作れる」ことだ。
このシーンでナバスは前者を選択した。というか、おそらくそうして前進してポジションを取ることがもはや習慣となってる。
問題はこの選択が果たして正しかったのか、である。
ゾーン1は立っていてもある程度守れるエリア、つまりそもそもシュートコースが限られている。その状況で前に寄せてさらにシュートコースを狭める必要はあったのか。
相手はジエゴ・コスタだったことも考慮すべきだった。強いシュートを打ってくる可能性が高い相手に対して、寄せることで得られるメリットと下がって得られるそれの、どちらが大きいだろうか。
「どちらが正しかったか」と言い切れるほどGKは簡単なポジションではない。同じシチュエーションは2度と訪れないし、正しくないようなポジショニングでも結局はゴールを防げれば無問題なのだ。だけど、このシーンでは明らかにボールへ反応できてない。反応時間があったら防げた失点だったというのが僕の認識だ。
ひとこと
ナバスは「なるべく前進してシュートコースを狭める」ことでゴールを守り、生き残ってきたGKだ。そしてその生き残りかたは世界中の「小さなGK」にとっての希望だ。しかしこのままレアルにとどまるとすれば、「巨人」クルトワと熾烈なポジション争いを強いられる。どうなることやら。
ゾーンモデルはこちらを参照↓
☆ゾーンモデル
— Rene Noric (@ReneNoric) 2018年8月11日
ゾーン1(①)
→スタンディングゾーン。倒れずに守れるエリア
ゾーン2(②)
→ローリングダウン、コラプシングで守れるエリア
ゾーン3(③)
→ダイビングが必要なエリア。守るのが一番困難
ゾーン4(④)
→16.5m以上の距離があるエリア pic.twitter.com/yYA2LPjwBp